2026年7月、クマは山ではなく住宅街に降りてきた。1週間で4回、同じ家に侵入したクマ。至近距離で目が合った住人。そして、市街地でクマを撃つ「緊急銃猟」が、いよいよ現実に運用されはじめた。街の中で、市民が見ている前で引き金を引く。その重さを、狩猟免許を持ちながらまだ一度も動物を撃ったことのない一人として、7月のニュースに重ねて考えてみます。

この記事は:7月に起きた事実 → 緊急銃猟を「誰が担うのか」という問い → 割れる世間の声 → 撃つ側の重さ → まだ撃てない自分の本音、で書いています。正解を配る記事ではありません。

7月に起きたこと

2025年度のクマ人身被害は238人・死亡13人と過去最悪を記録し、2026年度も高いペースが続いています。7月は市街地への侵入が相次ぎ、東北から甲信越にかけて警報・注意報が出続けました。こうしたなか、2025年9月に始まった緊急銃猟が実際に運用され、環境省は実施例を盛り込む形でガイドラインを改訂。「市街地で、行政の判断で撃つ」という選択肢が、制度から現場の話へと移ってきた1か月でした。

「それ、狩猟者が担っていいことなのか」という問い

緊急銃猟が現実になるほど、現場からは静かな戸惑いも聞こえてきます。もともと狩猟は「山で獲物を追う」もの。ところが緊急銃猟は、住宅街という背後に人家が並ぶ最悪の射撃環境で、行政に呼ばれて撃つ役目です。跳弾や誤射のリスクは山の比ではありません。にもかかわらず、それを担うのは日当数千円で動く民間のハンターたち。「制度は作った、あとは撃ってくれ」という構図に、「本当に自分たちが引き受けていいことなのか」と問う声があるのは当然だと思います。

世間の声は、きれいに二つに割れている

クマが1頭捕獲されるたび、自治体には抗議の電話が鳴ります。ただ、その声も一枚岩ではありません。

「反対」の中の温度差:①命への素朴な痛み ②「人間が山を削ったのが先だろう」という怒り ③「麻酔で返せばいい」という手段への誤解。①②は感情としてまっとうで、否定すべきではありません。噛み合わないのは③で、”返す”が現実には最も難しいと知られていないだけのことが多い。

「駆除やむなし」の中の温度差:①通学路や住宅街で実際に怯えている当事者の切実さ ②「批判するなら現場に来い」という現場の疲弊 ③安全圏から「さっさと撃て」と煽るだけの声。①は最も重く、③は反対派の③と同じくらい無責任です。

本当の断層は「賛成 vs 反対」ではなく、当事者性のある声 vs ない声のあいだにある。市街地で撃つ時代になったいま、その撃つ役を引き受ける人へ、遠くからの強い言葉がいっそう重くのしかかります。

撃つ側が背負っているもの

狩猟免許を持ち、射撃教習まで進んだ身として言えるのは、緊急銃猟に出る人は誰も好きで引き金を引いているわけではない、ということです。市街地で撃てば、成功しても苦情、失敗すれば大事故。報酬は薄く、責任は重い。跳弾事故のニュースが流れるたび、「じゃあ、誰が撃つの?」という問いだけが宙に浮きます。担い手の高齢化・なり手不足の背景には、体力の問題だけでなく、この重責を数千人の善意に押し付けている構造があります。

皮肉なのは、この夏「クマが怖いから」と狩猟免許に殺到する人が急増していること。宮城県では試験が抽選1.8倍になりました。守りたいという動機は尊い。ただ、免許を取ったその先にある報酬・責任・世間の視線、とりわけ緊急銃猟の重さまで見て飛び込む人がどれだけいるか。「怖い」から「撃つ」までの距離は、思っているよりずっと遠い。

正直に言うと、自分も撃てるか分からない

ここまで撃つ側に立って書いてきましたが、最後に正直なことを。私は第一種銃猟の免許を持ち、所持許可の手続きを進めていますが、まだ一度も動物を撃ったことがありません。ましてや市街地で、住民に見られながらクマに銃を向けられるか、本当のところ、自分でも分からない。

だから「かわいそう」と言う人の気持ちも痛いほど分かるし、その痛みを一度も感じずに「さっさと撃て」と言える人のほうが、私はよほど怖い。7月、クマを街で撃つ時代の入り口に立って思うのは、賛成でも反対でも、声を上げる前に一度だけ、引き金を引く人が背負うものを想像してほしい、ということです。私自身、まだその重さの入り口に立っているところです。

よくある質問

Q. 緊急銃猟は、街中でクマを見つけたハンターが自由に撃てるの?
いいえ。市町村長の判断で委託され、住民の安全確保など条件を満たした場合に限られます。個人の判断で撃つ制度ではありません。

Q. 駆除に反対する電話は現場にどう影響する?
ハンターや自治体職員の精神的負担になり、担い手のなり手不足を加速させる一因と指摘されています。

Q. 撃つ側のハンターは平気で駆除しているの?
いいえ。「動物が好きだからこそ苦しい」と語る人が多く、心理的な負担を抱えながら地域のために引き受けているのが実情です。

まとめ

クマ問題を「他人事」から一歩踏み込んで考えたい人は、有害鳥獣被害の仕組みもあわせてどうぞ。

参考・引用元

※ 本記事は上記の報道・公表情報にもとづく筆者個人の見解です。数値の最新値は各公式発表をご確認ください。

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この記事を書いた人

千葉県在住。狩猟免許(第一種銃猟)取得済み。現在実猟に向けて準備中。免許取得の勉強・試験の実体験をもとに、これから狩猟を始めたい人が迷わないよう情報を発信しています。

※ 本記事は2026年7月時点の報道・公表情報にもとづく筆者の見解です。制度・統計の最新情報は環境省・各都道府県の公式情報をご確認ください。

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