2026年9月28日、東京・八王子市の畑で、わなにかかったクマが都内で初めて緊急銃猟によって駆除された。ニュースの見出しだけ見れば「東京にもクマが来た」という話だ。でも経緯を追うと、もっと引っかかるものが残った。発見から駆除まで、約3時間。その間、小さなわなにかかったクマは、いつ外れて逃げてもおかしくなかったという。狩猟免許を持ちながら、まだ一度も動物を撃ったことのない一人として、9月のこのニュースに重ねて考えてみます。
この記事は:9月に起きた事実 → 「3時間」という時間の意味 → 制度があっても撃てない理由 → 兵庫の解禁が示すもう一つの現実 → まだ撃てない自分の本音、で書いています。正解を配る記事ではありません。
9月に起きたこと
八王子で都内初の緊急銃猟。駆除されたのはメスのツキノワグマで、体長約1メートル、体重約70キロの若い個体だった。報道によれば、農家がわなにかかったクマを見つけたのが午後2時半ごろ、市長が緊急銃猟を承認したのが5時13分、実際に撃たれたのが5時29分。発見から約3時間。地元のハンターは「これでは緊急銃猟の意味がない」と漏らしたという。同じ9月、兵庫県は3年ぶりにクマ猟の解禁を決めた。首都圏で「撃つのが遅い」と嘆かれ、関西で「もっと獲らなければ」と解禁される。クマをめぐる日本の温度差が、一枚のカレンダーの中に同居していた。
「3時間」は、誰が悪いわけでもない
最初にこのニュースを見たとき、正直「遅すぎる」と思った。わなにかかったクマが暴れて外れたら、その先は住宅地だ。けれど経緯を読み返すと、誰かが怠けていたわけではないことも分かる。警察への連絡、市の対策本部の立ち上げ、市長の承認、住民の安全確認。一つひとつは、全部「飛ばしてはいけない手続き」だ。緊急銃猟は、ハンターが現場の判断で即座に撃てる制度ではない。人のいる場所で弾を使う以上、避難も、交通規制も、跳弾を受け止める背後の確保も要る。だから時間がかかる。これは制度の欠陥というより、「市街地で銃を使う」ことの重さそのものなのだと思う。
制度は広がった。でも撃てる人は増えていない
引っかかること:緊急銃猟は施行1年で14道県81件まで広がった。福島県郡山市では目撃から実施まで約43時間かかった例もあるという。件数が増えても、現場で実際に引き金を引ける人と、その人を支える自治体のノウハウは、同じスピードでは増えていない。
東京で都内初が出たということは、制度が「地方の特殊事情」から「どこでも起こりうる日常」に変わったということだ。けれど、八王子の3時間や郡山の43時間が教えてくれるのは、制度を作っても、それを回す人と経験が足りていないという現実だ。担い手の高齢化・なり手不足は、事故ゼロで済んでいる今のうちに向き合うべき問題だと、改めて思う。
兵庫の「解禁」が示す、もう一つの現実
一方で兵庫県は、保護のため獲ってこなかったツキノワグマを、3年ぶりに撃てるようにした。8月末までの目撃が495件、過去5年平均の1.7倍近い。ドングリが凶作で、冬眠前にクマが里へ下りてくる。「かわいそうだから獲らない」でも「怖いから全部駆除」でもなく、増えすぎた個体数を管理する、という淡々とした判断だ。守ることと獲ることは、対立ではなく地続きなのだと、この解禁は静かに語っている。クマと向き合う覚悟については熊ハンターになるにはの記事でも触れたが、現実はいつも、きれいな二択より重い。
正直に言うと、自分はまだその「3時間」の外にいる
ここまで偉そうに書いてきたが、最後に自分のことを。私は第一種銃猟の免許を持ち、所持許可の手続きを進めているが、この秋もまだ、一度も動物を撃っていない。八王子の畑で3時間待たされたクマのニュースを、結局は画面のこちら側から眺めている。「遅い」と言うのは簡単だ。でも、もし自分がその現場に呼ばれたとして、住宅地を背にして、逃げるかもしれないクマに、落ち着いて銃を構えられるだろうか。たぶん、手が震える。
それでも、制度が東京にまで届いたこの秋に思うのは、遠くから「遅い」「かわいそう」と強い言葉を投げる前に、一度だけ現場の時間を想像してほしいということだ。承認を待つ3時間の緊張も、3年ぶりに引き金を引く人の迷いも、そして「怖い」と言いながらまだ動けずにいる自分のような人間のことも。クマは、もう誰かひとりの問題ではなくなっている。
よくある質問
Q. 発見から3時間は、やっぱり遅いのでは?
結果だけ見れば遅く感じますが、市街地での銃使用は住民避難や安全確保の手続きが不可欠です。「誰かのミス」ではなく、市街地で撃つことの重さそのものだと筆者は考えます。
Q. 制度が広がれば安心できる?
件数は14道県81件まで増えましたが、実際に撃てる人や自治体のノウハウは同じ速さで増えていません。担い手の問題は今のうちに向き合うべき課題です。
Q. クマを「解禁して獲る」のは残酷では?
守ることと獲ることは対立ではなく地続きです。増えすぎた個体数を管理することは、人とクマが共存するための選択肢の一つだと筆者は受け止めています。
まとめ
- 2026年9月、東京・八王子で都内初の緊急銃猟。発見から駆除まで約3時間かかった
- 「3時間」は怠慢ではなく、市街地で銃を使うことの重さそのもの
- 制度は14道県81件まで広がったが、撃てる人・自治体のノウハウは追いついていない
- 兵庫県は3年ぶりにクマ猟を解禁。守ることと獲ることは地続きだと示した
- 免許を持つ筆者自身、この秋もまだ撃てていない。だから両方の気持ちが分かる
クマ問題を「他人事」から一歩踏み込んで考えたい人は、有害鳥獣被害の仕組みや9月のニュースまとめもあわせてどうぞ。
参考・引用元
- 環境省「緊急銃猟」(外部サイト)
制度の概要・実施状況(八王子が都内初と確認) - 「八王子市で都内初の緊急銃猟」NHK・読売新聞・現代ビジネス 等(2026年9月28日配信)/経緯・個体情報・ハンターのコメント
- 「クマ緊急銃猟、14道県で81件 開始1年、安全確保に時間も」時事通信(2026年9月5日配信)/郡山市で約43時間の例
- 「兵庫県が3年ぶりにツキノワグマ猟を解禁へ(目撃495件・過去5年平均299件)」MBSニュース・サンテレビ・神戸新聞 等(2026年8〜9月配信)
※ 本記事は上記の報道・公表情報にもとづく筆者個人の見解です。数値・制度の最新値は各公式発表をご確認ください。
この記事を書いた人
千葉県在住。狩猟免許(第一種銃猟)取得済み。猟銃所持許可は手続き中で、まだ実猟の経験はありません。免許取得の勉強・試験の実体験をもとに、これから狩猟を始めたい人が迷わないよう情報を発信しています。
※ 本記事は2026年9月〜10月初旬時点の報道・公表情報にもとづく筆者の見解です。制度・統計の最新情報は環境省・各都道府県の公式情報をご確認ください。
